輪島市名舟地区の御陣乗太鼓はどのように現在に伝えられてきたのか?
神谷浩夫(文学部地理学)
「ふらっとほーむ」での演奏(2007年10月3日)
輪島市名舟地区に古くから伝わる御陣乗太鼓は、石川県の無形文化財に指定されている。毎年7月31日・1日に行われる名舟大祭では、きりこが町内を練り歩き、御陣乗太鼓が神社に奉納される。この御陣乗太鼓は、面をかぶって見えを切る仕草や太鼓が壊れるほどに力強く打つ独特の奏法を持つ点で、日本各地に伝わる和太鼓には見られない特徴を有している。そのため、伝統的な日本文化を現代に伝える貴重な無形文化遺産として、日本国内のみならず海外でもきわめて高い評価を受けてきた。
名舟大祭での演奏(2007年7月31日)
そこで、多くの無形文化遺産が高度成長期に衰退の道を辿ったにもかかわらず、御陣乗太鼓だけがなぜ維持されてきた理由を明らかにするのが、今回の調査の目的である。高度成長期以降の輪島市名舟地区で暮らす人々の経済的な基盤の変化や、昭和40年代に巻き起こった消えゆく伝統的な農村文化を見直そうという「ディスカバージャパン」の観光ブーム、そして名舟地区の人々が御陣乗太鼓を集落全体で維持していこうと結成した御陣乗太鼓保存会の役割などが、重要なファクターとして浮かび上がってきた。名舟地区の人々は、御陣乗太鼓保存会を全国に先駆けた村起こし運動であるとの強い自負も抱いていた。
調査では、こうした点を名舟地区に暮らす人々や関係者へのインビュー、各種の統計資料やデータからの裏付けを進めている。そして、これまでの文化地理学の研究蓄積も参照しながら、中国や韓国の無形文化遺産をたんに博物館の中に展示するのではなく、無形文化遺産を支えている人々が地域で快適に暮らし続けることのできる方策についても考えていきたい。
神谷 浩夫
金沢大学文学部 地理学講座 教授
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