白山麓のでくまわしについて

旧尾口村(現白山市)の東二口及び深瀬地区に伝わるでくまわしに関しては、「三百年ほど前、集落に冬季地方巡業に来ていた大坂の人形遣い一座が、豪雪で身動きできなくなったときにここの村人に助けられ、そのお礼にと「でく(人形)」と「まわし技法(人形遣いの技法)」を伝授していった」(深瀬地区)、あるいは「商売で大坂に行った地元の人が、人形浄瑠璃に感激し、人形遣いの技法と浄瑠璃を学んできて、地元に伝えた」(東二口地区)等の口伝が残っている程度で、これ以外に由来を伝える資料がありません。しかし、典型的な一人遣いの様式によって演じられるもので、近松門左衛門が活躍した時代の人形浄瑠璃の様式をそのまま保存している貴重な伝統芸能です。いずれも国の重要無形民俗文化財に指定されていますが、両地区ともに後継者不足に悩んでいます。地元の小学校等を通じて、総合学習その他の機会を通して指導してはいるものの、上演する演目の内容を理解するだけでも困難を極めているのが実情です。そのため関係者は、かねてからわかりやすいテキストの必要性を訴えていたのですが、幸いにも本年より、文化庁・白山市と連携して、主要な演目について、小学生向けのテキストを作成することになりました。その担当者に指名されたのを機に、本事業との連携を図ることになりました。

本年は、『出世景清』全五段、『仮名手本忠臣蔵』五段目・六段目、『酒呑童子』のテキストを作成する予定です。なお、協力予定の学生・院生とともに、今年度中に現地調査を実施する予定です。

研究者紹介

近影

木越 治

金沢大学文学部 教授

浮世草子、上田秋成や井原西鶴を研究テーマとし、著書・論文に『都賀庭鐘・伊丹椿園集』(国書刊行会)・『秋成論』(ぺりかん社)・「瑞龍山下の老隠戯書─『春雨物語』と和歌─」(江戸文学27号・2002)など。