『漢語方言地図集』
曹志耘 主編
商務印書館,2008年11月出版,北京
統一規格の現地調査に基づき、編集された20世紀の漢語方言の基本的様相を全面的に反映する、全くオリジナルな、はじめての言語特徴地図集。言語学者必携の文献である。
中国国内外の34の大学と研究機関、57名の研究者が7年の歳月をかけて、全国930の地点を実地調査し、510枚の方言地図を作製、これを収録した。430x320mm大、157gアート紙カラー版、豪華装丁。全3巻1980元(音声巻810元、語彙巻720元、文法巻450元)。
漢語方言は悠久の歴史を持ち、複雑を極め、現在世界で最も古く、そして最も豊かな言語文化的資源の一つであり、中国文化そして人類の文明の貴重な遺産である。20世紀中葉以来、我が国の経済、文化、教育、交通などの事業の急速な発展によって、漢語方言には極めて大きな変化が生じ、各地の方言の特異な現象は今、急激に失われつつあり、劣勢に立たされる方言の中には、滅亡の危機に瀕しているものさえある。全体的な科学的調査で漢語方言の伝統的様相を記録し、直ちに漢語方言のデータを収集し、民族の言語文化遺産を守ることは、今や我が国言語学界焦眉の歴史的使命となっている。
方言地図は言語研究の重要な手段の一つであり、広範な地域の、数多くの方言現象の様相、分布状況といった面を記述し、可視化し、保存する上で、決定的な役割を果たす。方言特徴の分布図は方言地図の基本的形式であり、また言語地理学、歴史言語学、社会言語学、言語類型論などによる言語研究を行う上での基礎となる。国内外の学術界は熱い眼差しで、久しくこの全体的な漢語方言特徴地図集の出来を待ち望んでいた。
「漢語方言地図集」という研究テーマは2001年にスタートし、2008年に完成した。参加メンバーは国内外の34の大学、研究機関の研究者で、全部で57名。調査地点は全部で930。香港、マカオ、台湾を含む全国各地に及び、東南地区は一つの県につき一地点である。省級市及び方言区の代表地点となっている都市以外の地点は、すべて農村の方言を調査対象とした。インフォーマントは1931-1945に生まれた男性であることを基本とする。調査表は研究チームが今回の調査のために編纂した『漢語方言地図集調査ハンドブック』を用いた。これには単字は425字、語彙は14類470語、文法は65類110項目、全部で1005の調査項目が収録されている。調査項目を設定する上での主たる原則は、(1)重要な地域差異を反映していること、(2)重要な歴史的変化を反映していること、の2点である。すべての調査地点は現地に赴いて調査を行うこととした。伝統的な手書きによる記録の他、デジタル録音で全ての調査項目の音声データを録音した。
あらゆる調査データは入力、校正を行い、全部で930の地点の「漢語方言地図集データベース」を構築した。そしてNFGISの全国地図データベース及びArcView9.1地図作成ソフトを利用して、「漢語方言地図集情報システム」を立ち上げ、このシステムを基に、方言地図作成作業を進めた。
調査結果に基づき、我々は全ての調査項目の中から、最も価値があると思われる510の地図項目を選抜し、510枚の方言特徴分布地図を作成し、音声、語彙、文法の3巻とした。各巻の地図の分類法及びそれに属するものの数量は以下の通りである。
『漢語方言地図集』の一例として「黒い」を表す語形の分布図をご紹介します。
岩田 礼
金沢大学文学部 教授
研究テーマは漢語方言の言語地理学的研究、中国語の実験音声学的研究などで、主な著書に『中国の方言地理学のために』(好文出版)など。