日本の中世以来の伝統芸能、「能楽」を対象として「無形文化遺産保護と新文化伝統創出」を考える調査・研究を実施します。今年度は別掲「シンポジウム:金沢が育んだ加賀宝生の魅力―無形文化遺産の継承を考える―」を連携先の金沢市金沢能楽美術館と共同で開催し、「加賀宝生」の内と外から保護・継承の独特の展開に光を当てます。その歴史を振り返ることで、他分野・他地域の「無形文化遺産保護と新文化伝統創出」を考えるヒントが見いだせるでしょうし、また「加賀宝生」自身の未来を模索する機会にもなると思います。「無形文化遺産保護と新文化伝統創出」には、何より対象の魅力を発見し、共有することがその推進力になるはずです。日本人は「能楽」に、金沢の人々は「加賀宝生」に、どういう魅力を発見し、支持してきたのでしょうか。保護・継承の「危機」はかつてどう克服され、少子高齢化の現在、愛好者の減少はどういう影響を及ぼし始めているのでしょうか。「近現代能楽史の地方展開」を研究課題の一つとする私は、それらの問題を見通す材料として能楽雑誌の記事に注目し、収集を続けていますが、本事業においては各地の能楽施設(能楽堂・資料館等)を訪ねて、日々の活動を調査し、その傾向を把握することを進める予定です。もちろん本来の研究課題である作品研究においても、作品の魅力を再発見するような論文を書くことが、私にとって「能楽」を支持し、本事業に参加する意欲につながります。並行して研究を深めて行きたいと願っています。
西村 聡
金沢大学文学部 日本語学日本文学講座 教授
日本中世文学の中でも能楽や狂言を中心に研究をすすめており、主な著書に『大鼓役者の家と芸ー金沢・飯島家十代の歴史ー』など。2002年第23回観世寿夫記念法政大学能楽賞受賞。