中国伝統芸能

南中国では古くから「南戯」と呼ばれるお芝居が盛んに上演されてきました。長江下流に位置する江蘇省では明清時代から海鹽腔や崑山腔など独特の節回しを持った芝居が流行し、中でも蘇州から全国に発展していった崑山腔はのちに昆曲と呼ばれるようになり、現在、中国を代表する演劇の一としてユネスコの世界無形文化遺産に登録されているのはご承知の通りです。また、江蘇省は昆曲以外にも非常に多種多様な伝統芸能があり、中国伝統芸能の宝庫と言っても過言ではありません。演劇では無錫の錫劇、丹陽の丹劇、揚州の揚劇、塩城で誕生した淮劇、上海で誕生した滬劇、徐州で流行する江蘇梆子、浙江由来の越劇、呪術的な高淳目連戯、南通、海門一帯の僮子戯など各地域に方言文化を反映した十数種の地方劇が継承されています。講唱芸能に目を移すと、琵琶などを伴奏に用いた弾き語りの蘇州評弾が何と言っても有名で、現在でも蘇州を中心に江蘇省の各地に演芸場があり好評を博しているほか、揚州の評話(講談)や、上海周辺に残る宣巻と呼ばれる宗教芸能などがあります。このほか、江蘇では明代から「山歌」と呼ばれる民謡が盛行し、現在でも各地で歌い継がれています。

しかしながら、江蘇省は中国でも最も経済が発展しているところであり、一部の地域では急速な近代化によって、残念なことにこれらの伝統芸能が消滅の危機に瀕しています。そこで本事業では、中国の蘇州大学文学院や現地の研究者と協力しながら、これらの伝統芸能を映像や音声で記録・保存しデータベースを作成・公開して研究資料に供するするとともに、伝統芸能の保護、活用について日中両国は今後どうすればいいのか、互いに知恵を出し合いながら取り組んでいこうと考えています。

研究者紹介

近影

上田 望

金沢大学文学部 准教授

中国の地域社会と伝統芸能、中国明清小説の読書史を研究テーマとし、近年では江蘇如皋童子や紹興宝巻の現地調査を精力的に行う。平成7年度日本中国学会賞、第20回東方学会賞を受賞。

研究者紹介

近影

黒田 譜美

金沢大学 人間社会環境研究科 博士後期課程

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