ポン教・チベット仏教

中国の少数民族はさまざまな宗教を伝えています。その中でも、チベット族の伝えるチベット仏教は、インドの大乗仏教や密教の伝統をくみ、千年以上の長きにわたって、チベット族の精神文化の中心を占めてきました。チベット自治区はもちろん、青海省、四川省、雲南省などの周辺の省にも、チベット仏教は見られます。中国国外でも、インドのラダック地方、ネパールの山岳部、ブータン、モンゴル(内モンゴルを含む)などで古くから信仰されていますし、近年では欧米でもその信者を増やしています。

チベットには仏教以外にも、ポン教(Bon po)と呼ばれるチベット固有の宗教があります。ポン教の寺院もチベット文化圏に広く存在し、多くの信者を擁しています。チベットに仏教が伝わる以前から信仰されていた宗教といわれますが、現在のポン教は、仏教の影響を受けて変質した「新しいポン教」と呼ばれます。これまで、本格的な研究はほとんどなされていませんでしたが、近年、日本や欧米から研究や調査の成果が徐々に発表されるようになりました。

チベット仏教もポン教も、長い歴史と伝統を持った宗教ですが、中国の影響をつねに受けてきました。とくに1950年代のチベット動乱と、70年代から80年代にかけての文化大革命の時代には、寺院や文化財の徹底した破壊がおこりました。現在では一定の保護政策が進められていますが、社会や経済の急速な近代化が進むなかで、伝統の変容や消失が起こりつつあります。

この調査グループは、チベット仏教とポン教というチベットの伝統的な宗教文化が、現在、どのような状況にあり、その伝統をどのように維持し、将来に伝え、さらに発展させるかをテーマとしています。現地の仏教寺院やポン教寺院を訪れ、寺院内で行われている法要や儀式、祭礼の調査や、僧侶や信徒組織の聞き取り調査などを行います。とくに、チベット文化圏から見ればマージナルな地域であり、かつ漢民族の文化との接点でもある四川省と青海省を中心に研究を進めます。

研究者紹介

近影

森 雅秀

金沢大学文学部 教授

仏教タントリズムの儀礼と図像に関する研究、マンダラの理論と実践の比較研究をテーマとし、近年の著書には『仏のイメージを読む マンダラと浄土の仏たち』(大法輪閣)などがある。1998年に密教学術奨励賞、1999年には日本密教学会賞を受賞。