国際シンポジウム「石の匠―石工技術から探る日中交流―」開催報告
平成21年11月28・29両日にわたり国際シンポジウム「石の匠―石工技術から探る日中交流―」が開催されました。このシンポジウムは、我々のプロジェクトとして「伝統的技術」をテーマにした初の試みです。研究者・学生はもとより、日本各地より数多くの石材業関係の方々が参加され、2日間の延べ参加者数は70名ほどになりました。2日間のプログラムは以下の通りです。
[1日目] 11月28日(土)
石造文化財の日中共同研究(大和郡山市教育委員会 山川均)
寧波周辺の石造文化財(寧波市工芸美術学会 楊古城)
石灯篭師が見た中国の石造技術(西村石灯呂店 西村大造)
日本の硯生産(金沢大学大学院/石川県埋蔵文化財センター 垣内光次郎)
[2日目] 11月29日(日)
宋代における中国石造文化(復旦大学歴史地理研究センター 閻愛賓)
中日石造物の文様比較(奈良女子大学大学院 大江綾子)
日本の石造物に見る中国の影響(元興寺文化財研究所 佐藤亜聖)
シンポジウム「石の匠―石工技術から探る日中交流―」(司会:中村慎一)
今回のシンポジウムのテーマは石工技術です。石彫、石塔、石灯籠、板碑、石鍋、石硯などさまざまな器物が取り上げられました。原石の採取から製品の仕上げにいたるまでの一連の工程はどのようなものであったのか、また、そこに彫りこまれる紋様にはどのような含意があるのか、といった事柄について、日中両国の研究者達がそれぞれの研究成果に基づいて熱い議論を戦わせました。
今回のシンポジウムのユニークな点は、発表者の中にいわゆる研究者ばかりでなく、伝統的技術の保持者も加わっていることです。陶芸・漆芸・金工といった他の伝統工芸とは異なり、石工の分野には機械化の波が急速に押し寄せ、日本でも中国でも伝統的な技術は消滅の危機に瀕しています。その中で、それを頑なに守り続けようとする西村石灯呂店主・西村大造氏の存在は研究者から注目されるばかりでなく、多くの同業者の方々の関心も引いたようです。古代・中世以来の伝統的技術が、いま新たな文化的創造の源としてクローズアップされつつあります。技術というものは社会や経済の発展にともなって変わっていかざるをえない面を持つことは確かです。しかし、多様なものから画一的なものへと変化するなかで失われていくものも少なくありません。そうしたもののなかから価値あるものを見つけ出し、その保護・育成を通じて新文化伝統の創出へとつなげていくことの必要性を痛感させられたシンポジウムでした。
なお、本シンポジウムの報告書は平成21年度末に刊行の予定です。