『講談と評弾』が刊行されます!

2010/03/12

金沢大学歴史言語文化学系教授    
木 越  治  

 

 八木書店から、『講談と評弾』が刊行されます。この書物は、二〇〇八年秋に行なわれた日中友好講談大会の成果を踏まえて、両者のより広汎な紹介と理解を深めるために、金沢大学連携融合事業「日中無形文化遺産プロジェクト」からの出版助成を得て企画・刊行されたものです。

経緯   

 すでに、この会に先立つ数年前から宝井琴梅師を会長とし、福島守氏を事務局長とする超党派の講談師の集りである「日中講談交流仲間の会」が、中国の関係者との間で交流を重ねてきていました。たまたま、このプロジェクトに所属している木越が、以前からおつきあいのあった講談の神田陽子先生にお会いした折り、二〇〇七年秋に中国蘇州へ仲間の講談師の方々といっしょに見学ツァーに行くことになっている、という話を聞いたのがこの事業と我々との接点になりました。その後、二〇〇八年秋に中国の評弾家を招いて東京の国立演芸場などで上演会を開催することになったという情報も教えていただきました。そこで、急遽、上演会を主催する「日中講談交流仲間の会」事務局長の福島守氏にお会いし、金沢での上演会実現をお願いしました。
金沢会場でのシンポジウムと上演会の模様に関してはこちらを参照してください。

http://heritage.w3.kanazawa-u.ac.jp/projects/sym/081014-2/report.html

中国の話芸の専門家である上田望・黒田譜美両氏の活躍により、学術的にもしっかりした内容の、かつ、一般の方にも興味深い内容の催しでした。
その他の会場(東京と大阪)の模様に関してはこちらを参照してください。

http://www.ekago.com/08nicchu-kodanntaikai-top.htm

 これらに関しては、各会場で収録したDVDが残っているのみですが、今年になって、上田望氏から、この会のことをなんとか書物にまとめませんか、という提案がありました。私としては、せっかく、一般の人もたくさん参加した上演会でしたから、関係者だけに配付する報告書という形態ではなく市販の書物の形態にしたいと考え、出版助成の方法や引き受けてくださる出版社に関していろいろ相談を重ねました。その結果、八木書店にお願いすることができ、この三月末に出版にこぎつけたわけです。なお、金沢・東京・大阪での上演会の様子をDVDとして付録につけましょうという提案は八木書店側から出されたものですが、幸いにも、それぞれの会場の様子を映像記録に残しておられたビスタス・ジャパン藤森博氏の全面的な協力が得られ、出演した講談師の皆さんや評弾家の方々も賛同してくださいましたので、ほとんど支障なく実現させることができました。関係の皆様方に心から感謝したいと思います。

内容紹介  

 『講談と評弾』のくわしい内容は、別掲のチラシを参照してください。
附録のDVDは図書館等で貸出自由にしてありますから、会場に来られなかった人にもひろく観てもらうことができます。くわしく調べたわけではなりませんが、講談はともかく、中国蘇州の評弾に関する日本語の本が解説とDVD付きで出版されるのは日本でも初めてのことではないかと思います。上田望先生の解説はわかりやすく丁寧に書かれていますが、学術的にかなり高度な内容を含むものです。また、黒田さんの袁小良師へのインタビューも興味深いものですが、神田陽子・宝井琴梅両先生へのインタビューと比較しつつ読んでみると、日中の事情の違うところ、似ているところがわかっていっそうおもしろくなると思います。
いまのところ、蘇州評弾と日本の講談に関しては、演者どうしの交流の方が先行している感じがありますが、両者の歴史的経緯や芸能としてのあり方など学術的な考究をすすめていくべき問題がなお多く残されています。また、こうした伝統話芸が、なかなか若い層にまで浸透していかないことなど、両者が共通に抱えている問題もすくなくありません。本書の刊行がそうした問題を考えていくきっかけになることを期待したいと思います。
なお、日本の講談について書いていただいた島田大助・勝又基氏は、ともに若い世代の講談研究者です。お二人の本格的な論考も今後の研究のあり方を示唆するものとして参考になると思います。
巻末に、「日中講談交流仲間の会」事務局長の福島守氏に、この間の活動をまとめていただきました。上記掲載のHPも福島さんの手になるものですので、あわせてお読みいただければいいかと思います。